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海外経験者の映画評 - "Avatar" filmed by J.F.Cameron

娯楽映画『アバター』(3D字幕版)は、海外経験者には別の見方もできる。忘れかけた海外風景の記憶がいくつも生き生きと甦り、過去の自分を追体験しているように感じる。

科学者の頭脳も軍人の力もない傷病兵のジェイクは、「学びに来た」と先住民ナヴィの前で膝を屈す。「あなたは子供のようだ」「何も分かっていない」という屈辱に耐え、未知の世界に圧倒されながら、おっかなびっくり現地の人の後をついて、見よう見真似を繰り返す。留学経験者ならば誰もが必ず通ってきた道だ。まず英語を話せる人を探す、空気の読めない感じもいかにもアメリカ人だ。そしてついに、一人前と見なされ関係が対等に逆転する日がやってくる。長い海外生活の中でもとくに感動的な瞬間だ。とくに相手の言語体系とルールの中で異性に自分を認めさせることは、決して容易なことではない。

ジェイクは、鉱山発掘の軍事スパイであることを隠して潜入した。しかし、先住民の善意に導かれ、彼らの知恵の深さに感銘を受ける。その感動と罪悪感、そして悔悟にも、既視感がある。私がインドを初めて訪れたとき、「後進国」の「貧民」を警戒心と優越感をもって見下していた。しかし、彼らはそんな傲慢な新参者を、逆に弱々しい子供のように憐れみ労わり親切にしてくれた。米国の黒人街でビクビクしながらバスに乗り込んだときも、小銭が足りず慌てて駆け下りようとしたら、汚れた服の見知らぬ老人が50セントを手の平に押し込んでくれた。金持ちの余裕から出た慈善とは重みが違い、素直に頭が下がった。人としての尊厳や知恵は、経済力や学校教育とは関係ない。自分が先進国に生まれ、彼らがここで育ったことの違いは、能力・努力・人格ではなく、単なる偶然に過ぎない。現地に根差し気高く生きる人々を見下すことは天に唾することだ。我々が海外で学ぶ最大のことは、言語や知識だけでなく、複眼的な発想回路だ。

ジェイクが先住民の側で闘うことを選んだ気持ちも共感できる。私は学生運動家気取りの頃、労働者の暴動で卒論を書こうと思い立ち、寄せ場の蚕棚に泊まり込み、日雇いの土方や沖仲士として働いた。しかし、鉄筋を運ぼうとしてもバラしてしまったり、普通なら土嚢を30袋運ぶ間に20袋しか運べなかったり、足手まといだった。何より「おっちゃん」達は、私の師匠であり恩人だったのだ。彼らを同情や研究の対象にしようと思っていた自分の傲慢と無知を私は恥じた。そしてこのテーマを飯の種にすることは止めた。あれから随分遠くに来てしまったが、「おっちゃん」達への恩と畏敬は変わらない。

瑞々しく浮き上がるパンドラの色彩は、海外のどこかで見た楽園の風景に似ている。自分にとっての楽園が次々に脳裏に浮かんだ。たとえば、インドのオーロヴィルのジャングル、カンボジアのシェムリアップの川辺、チュニジアのラマダン後のメディナ、パリの庭園から見上げた教会だ。パンドラはそのどれにも似ていないが、どこか近いような気がする。自分がかつて身を置いた懐かしい場所と重なり合うことで、空気や情感、匂いまでも思い出す。あのときのあの場所に帰りたいという郷愁が沸きあがる。

この映画が過去の記憶を呼び覚まし、感情移入させるのは、映画の入れ子構造のせいもある。ジェイクは、アバターでいる間は緑の自然と空や水の間を飛び回るが、連結が解けると灰色に閉ざされた武装基地と下半身不随の身体に戻ってしまう。ジェイクが現実に引き戻される感覚は、美しい3D画像から引き離され、映画館を出たときの我々の失望感と重なる。それはアジア・アフリカからの帰路、原色の森と土と喧騒の中からコンクリートの日常生活に戻ってきて、魔法が解けたように脱力する喪失感にも似ている。私はプノンペン空港の売店でココナツミルクを見つけ、搭乗前のラウンジで飲んでみたが、法外な値段だったにも関わらずちっとも旨くなかった。

『アバター』は、ハリウッドのファンタジー映画には珍しく、かつての西部劇にない世界観や問題提起もある。そのため、宅地強制収容で揉める中国政府が嫌ったとも報道される。先住民の神とは、ひとつの知性体として人や動植物や死者をも神経組織でつなぐ生態系=星そのものだった。侵略者の鉱石採取に対して先住民が闘うのはそのためであり、取引の問題ではない。ただし、アニメの宮崎駿夫やSFのアーシュラ・ルグインらの深みには及ばず、後半部は勧善懲悪に単純化される。が、3D特有の躍動感を最大限生かし、膨大なCGの労力の元を取るためには、戦闘アクションシーンが最適だと判断したのだろう。映像革命は大げさだが、技術革新と映像効果のマッチングに成功した良質なエンターテイメントには違いない。3Dを普及させた画期として映画史にも位置づけられるはずだ。

テーマ : 映画★★★★★レビュー
ジャンル : 映画

tag : 映画 アバター 3D 海外 留学

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terry75014

Author:terry75014
仏米英生活10余年、海外大学院卒。海外渡航・留学助言は各数10ヶ国。ここでは一個人の立場で独断と偏見を書きます。テリーと呼んで下さい。

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